優しい雨112翔side

好きだ

俺がそう言葉にした瞬間潤の瞳に涙が溢れて膜をはった。

大事なのはおまえで、必要なのもおまえで、

俺の全部、おまえじゃなきゃ意味がないんだ。

俺も、翔さんが好きだ

あぁ、その言葉。

頼むから何度でも言ってくれ。

俺とお前、どれだけお互いが必要か、どれだけお互いが不可欠なのか、

夜が明けるまでずっと語り合えたらいいのに。

次帰って来たときは抱いて

キスをするかたわら、前回の別れの前に潤が言ったセリフを思い出していた。

やっとこの日だよな。

おまえと別れてからもう約2年ぐらいたつか?

合わさる吐息が艶かしく、体の底から熱を帯びる。

今すぐその熱い体をここに組み敷いて、

おまえから溢れ出る蜜の味を堪能したい。

鳴り止まない動悸。

目が回るほどに翻弄させられる互いの息遣い。

欲しい。

欲しい。

早くその全部。

潤の服に手をかけたその時、

ブーッ、ブーッ、ブーッ

はっ!?

、でれば?

くっそ!誰だよ!

胸ポケットに入れていたスマホのバイブがけたたましく震える。

こんな時にって、荒しくそれを取り出してボタンをタップした。

はい櫻井

おまえ今どこだ。もうとっくに帰ってきてんだろ?空港からそのまま出社するって言ってたよなぁ?

あ、

電話の相手は俺がアメリカに行く前までめちゃくちゃ世話になってた上司の坂本さん。

この様子だと怒ってはいないようだけど、やっべぇ、すっかり忘れてた。

俺としたことが。

すいません、今すぐ向かいます!

そう言って慌てて電話を切った。

そしてじっと俺を見つめる潤の2つの瞳に気が付く。

ごめんな?

大丈夫だった?

あぁ、うん。すぐ会社に行かなくちゃいけなくなった

うん。部屋静かだから聞こえてた。今夜、飯作って待ってる

店は?

今日は開けない

分かった、終わったらすぐ帰るから

自分から発せられる甘い言葉に、なんだかこそばゆくなった。

潤は何かを思いついたように立ち上がって、キャビネットの引き出しから何かを取り出している。

ん、

そう言って突き出してきた潤の手の下に自分の手を広げると、

その中にポトンと鍵が落ちた。

しばらく日本にいるんだろ?その間持ってろよ

さんきゅ

そして、その鍵をぎゅっと握りしめた。

また今日もヤれなかったという残念な気持ちと、

これからのこっちでの生活への期待を込めて。

それから会社に向かえば、初日だというのに山のような仕事の引継ぎ。

結局開放されたのはあっさり0時を過ぎていた。

それから飲みに行くかなんて誘われたが、いやいやいやと3回同じ言葉を繰り返し、

また今度にしましょと笑った自分の顔が多少ひきつっていたような気がする。

それからようやく潤の家へ戻った。

もらった鍵を使って家の中へ入る。

中はやけに静かで小さな声でただいまと言って靴を脱いだ。

そろりそろりとリビングまで進めば、テーブルの上にはラップのかかった料理が広がっており、その奥にはソファに横たわって眠っている潤の姿が目に入った。

毎日、店のことに、雅紀の看病に、アメリカと日本とは時差もあるのに俺との電話もかかさずしてくれて。

だいぶ疲れてんだな。

リビングの横にある扉を開けるとそこは寝室だった。

ベッドの上に畳んであった毛布をとり、ソファに横たわる潤にかけた。

これから雅紀が復帰できるまではここでこうして一緒にいられるんだし。

久に今日はヤれるって意気込んでいたけれど、それもこいつの寝顔を見ていたらフッと力も抜けた。

普段は小悪魔みたいにあざとく笑うのに、寝顔はまるで天使のように綺麗だ。

俺はそうしてしばらく潤の寝顔を見つめていた。